ここ半年、アウェー感に悩まされていた。
娘のミニバスチームのことである。
ミニバスというのは小学生向けのバスケのことじゃよ
娘が小学生になったら一緒にバスケを楽しみたいと思っていた。
小学校に入学後、ミニバスチームの見学会にも行ったのだが、そのチームは車で40分もかかる。
さらに週に4回も練習があるため、さすがに送り迎えでノイローゼになってしまいそうだったのであきらめた。
しかし今年、3年生になってから隣町にもミニバスチームがあることを聞き、見学に行ってみたら通いやすかったので入団することにしたのだ。
ところが娘と同じ学区の子が1人もいない。
しかも地元で生まれ育った人たちばかりだった。
あるチームのお父さんによると、隣町なのに昔から交流がなく、見えない壁が存在しているのだという。
最初は何も感じていなかったが、すぐに馴染めていない自分たちに気がついた。
娘のあとに入団した地元の子たちはみんなに歓迎され、お下がりももらって順調にスタートする。
しかり僕ら親子には全然声がかからなかった。
娘は小学校のクラスでは人気者でリーダー格なのだけど、ミニバスチームでは失語症のようになってしまった。
「ファイトー!」
「ナイッシュー!」
など、バスケでは声を出すことが大切なのだけど、そんな簡単な言葉も出せなかった。
無口で誰とも喋らずにもくもくと練習する子。
気がつけば娘はそんなキャラになっていた。
バスケはチームスポーツである。
仲間とコミュニケーションが取れないと試合では使えない。
普段からアイコンタクトや声でやり取りしていれば、息のあったプレイができるようになるが、それができないとチームメンバーは安心してパスが回せない。
声を出すこと、アイコンタクトは信頼関係を気づく上での基本なのだ。
当初はチームに馴染めないことにモヤモヤした。
3ヶ月目のときには強い疎外感を感じてしまい、娘ではなく僕自身が練習に行きたくないと思ったほどだ。
しかし娘はそんな状況においても泣き言を言わなかった。
誰ともしゃべらず孤独な時間を過ごしているのに、もくもくと練習に打ち込んでいた。
僕はアウェー感・疎外感を感じて悩んでいたが、娘は一向に気にしていなかった。
そんな姿を見て、焦るのはやめようと思った。
チームに馴染めないからといって他のチームに当てがあるわけではない。
ここに住んでいる以上このチームに馴染むしか選択肢はないのだ。
3ヶ月目の悩みはそんな感じで乗り越えたが、半年経っても状況は変わらず、再びアウェー感に悩み始めた。
親は練習しているわけではなく、外から見ているだけなので余計なことを考えがちなのかもしれない。
悩んだ僕はchatGPTに相談した。
「アウェー感から抜け出すにはどうしたらいい?」
ものの数秒でAIによる結果が届いた。
最後のアドバイスが響いた。
「無理に急いで仲良くなる必要はありません。自分のペースで少しずつ慣れていけば自然とリラックスできるようになります」
その通りだと思った。
馴染めないからといって娘にプレッシャーをかけても仕方がないし、馴染めないからといって自分から妙に擦り寄っても余計に相手は居心地悪くなるだけで仲良くなりたいとは思えない。
今のままでいいんだ。
僕らはあいさつしていないわけじゃない。
ちゃんと話しかけているし、相手も無視しているわけではない。
ただなんか「よそ者感」を感じてしまってどう接したらいいのかわからないだけなのだ。
地方に住んでみると「よそ者」という概念が存在していることを実感する。
移住者と地元民との間にある見えない壁。
この壁に悩んでしまう移住者もいるし、移住者とは無意識に距離を取ってしまう地元民もいる。
そんな田舎に引っ越してきて7年。
僕ら家族は地元の人たちに受け入れてもらい、快適に暮らしている。
部外者が受け入れてもらうには時間が必要なものなのだ。
あいさつさえちゃんとしてれが時間がなんとかしてくれるものなのだ。
そんなわけで僕は焦るのをやめた。
1年でも2年でもかけて馴染めればそれでいいじゃないかと思った。
自分を無理につくろったらうまくいくものもうまくいかなくなる。
無理を重ねればいつか我慢できなくなる時がくる。
そんな日を迎えないためにも、自分なりに自然に振る舞うしかないのだ。
そんなある日の練習のあと、僕は娘に言った。
「もう無理に声を出さなくてもいいよ」
「ちゃんとあいさつして、一生懸命練習しよう」
「うまくなって『○○ちゃんとプレイすると気持ちいいね』って言われるようになればいいんだよ」
「そうなった頃にはみんなとうまくやれているさ」
娘に言っているようで自分に言っている言葉だった。
アウェー感なんて通過儀礼だ。
神様が僕らの忍耐力を試しているだけ。
アウェー感や孤立感に反応するから苦しいのだ。
反応しなければ苦しくない。
ありたい自分であり続け、変化が訪れるのを待つ。
それでいいんだと思った。